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第二部 灯り(あかり)

それはあっという間の出来事だった。

突発的に吹きつけた暴風が、ミカンをロープで固定する作業をしていたナミを、木ごと宙へ飛ばした。いち早く気づいたサンジはジャンプして、掴んだナミの体を近くにいたゾロに放った。そしてそのまま、海へ落ちたのだ。

それを知ったクルーたちはすぐさまサンジの救出に動いた。ゾロは荒れ狂う海へ躊躇なく飛び込み(続いて飛び込もうとしたルフィはロビンの手に止められた)、ウソップは視界を確保するため“アカリ星”を打ち上げた。

嵐の中で捜索は思ったように進まなかったが、波の間からひょっこり現れて手を振るサンジの姿をクルーたちはみな期待した。だがその期待も、最後のアカリ星とともに消えていった。海面は真っ暗で何も見えない・・・。

諦め切れずに暗闇を見つめる仲間たちを、ロビンが説得してラウンジに引き上げさせた。みんな疲れていた。海に入りっぱなしの剣士の体もそろそろ限界だろう。「少し休んでなにか手立てを考えましょう」というロビンの言葉に、みんなは素直に従った。その頃になると嵐はだいぶおさまってきていた。


ラウンジに入ると、濡れた体を拭くこともせずにナミは海図をテーブルに広げた。

「あたしたちがいるのはここよ。見て、この辺に島が幾つかあるでしょ?サンジくんが流されたとしたら、このうちのどれかに流れ着くと思うの」

「可能性はあるわね」ロビンが賛同した。

「おおーっし、だったら行こうぜその島に!」ウソップが拳を上げると、クルーたちは大きく頷いた。

「嵐はじきに止むわ。夜が明けたらこのあたりをもう一度捜索して、見つからなかったら島へ向かいましょ。きっとどこかにサンジくんはいるはずよ」

「あいつがこんなトコでくたばるわけねえ」ゾロが力を込めて言った。

「オレ頑張って見つけるゾ!」ナミの話を聞いてチョッパーも元気を取り戻した。

「決まりだな?よーし!朝になったら探しに行こう!」

明るい船長の声がラウンジに勇ましく響いた。

「待ってろよーサンジ!!」


陽が昇り始めるや否や、捜索が再開された。メリー号の位置が予想より離れていたせいで、小さな島の入り江に着いたのは正午近かった。四方の海を注意意深く見ながら船を進めたがサンジの姿はなく、結局ナミが当たりをつけたこの島へ舵を取ったのだ。

「おい、こりゃサンジのじゃないか!?」砂浜で見つけた黒い靴を拾い上げてウソップが叫んだ。

「間違いないよ。サンジのだ」鼻のいいチョッパーが確信をもってうなずいた。

砂浜には他にも打ち上げられたものが散乱していたが、結局靴は片方しかなかった。その持ち主であるサンジは、いったい何処にいるのだろう・・・。

不機嫌そうな顔つきで靴を見ていたゾロが、おもむろに島の奥へと歩き出した。残りのクルーも後を追う。

島の内部には集落の跡が残されていたがすっかり朽ち果て、人は誰も住んでいないようだ。「サンジ―!」「どこだー!?」と声を張り上げ、さして時間もかからずに島を一周した後、クルーたちはみな無言になった。チョッパーの目には、さっきから涙がじわじわと浮かんでいる。

「どこ行くんだよ?おい!」

ムスッとした顔でまた歩き始めたゾロを、ウソップが呼び止めた。

「もういっぺん見てくる」

「待って剣士さん。ここに彼はいないわ。・・そうなんでしょう船医さん?」

ロビンが顔をうかがうと、チョッパーは大粒の涙をぽたぽた落とし始めた。

「サンジのっ・・匂いがっ・・どこにもない・んだ・・・」鼻水をすすりながら絞り出すように言う。

「泣かないでよチョッパー・・」ナミもみるみる目を潤ませていく。

「なーにしんみりしてんだーお前ら?」

嫌な予感に襲われ言葉を失うクルーに反して、船長は気落ちするそぶりもなかった。

「ここにはいねえんだろ?だったら別の島探そうぜ」

いつもと変わらない調子で話すルフィに、クルーの視線が集まる。

「ナミ。他にもあるんだろー、島?」

「えっ?ええ」ナミは慌てて海図を開いた。

「小さな島が幾つか・・どれもたぶん無人島ね。それからこの近くに大きな島がひとつあるわ。ここに来る時見えたでしょ?こっちには町もあるみたい」

「ふーん・・。じゃあでっかい方で!」

「食いモン選んでんじゃねえんだぞ、テメエ!」ゾロがルフィをこづいた。

「だってサンジはでっかい島にいるんだよ!」

「どうしてそう思うのかしら船長さん?」自信たっぷりで言い切るルフィに、ロビンが質問した。

「あいつ無人島が嫌いなんだ」

「はあっ!?」全員が間の抜けた声を上げる。

「それに町には市場があるだろ。サンジは市場が好きだからなー」

「だからって・・」

「あとは俺のカンだっ!」ルフィはどーんと胸を張った。

「勘か・・」

「勘ねえ・・」

ルフィの動物的勘がバカに出来ないことを、仲間たちはよく理解していた。お互いを確かめるように顔を見合わせ、にっこりしてうなずく。どうやら腹が決まったようだ。

「さっさと行こうぜ、船長」

そう言うとゾロは先頭を切って歩き出した。

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