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第二部 灯り(あかり)

『トモシビ島』という名の島にメリー号が到着したのは、お昼を過ぎた頃だ。定期船も入港するという『アカリ町』の港に船を停泊した。町の雰囲気はどこか大らかで、海賊船を警戒する空気は感じられない。クルーたちは埠頭でナミを待っていた。

「うおーい!一人でどこ行く気だよ!?」

あらぬ方向へ歩き出したゾロをウソップが引き止めた。

「んァ?俺ァ先行くぞ」

「ちょっと待って剣士さん」

「またテメエか!」煩わしそうにゾロがロビンに目をやる。

「急ぎたい気持ちはわかるけど、むやみに探し回っている余裕はないわ。航海士さんが戻るまで待ちましょう」

聞いたところによると、この島のログはなんと半日で溜まるという。つまり真夜中過ぎにはここを出発しないと、ログが書き換わってしまうのだ。時間には限りがあった。そこでサンジを効率的に探すため、ナミが町の情報を集めて手順を計画することになったのだ。ゾロはロビンに釘を刺され仕方なくその場に立ち止まったが、落ち着きなくあたりをうかがっている。そうこうするうちナミが情報収集から戻った。

“サンジ捜索作戦”の内容はこんな感じだ。

ルフィ&ナミ、ゾロ&ロビンはふた手に分かれてアカリ町内を捜索。チョッパーはトナカイの脚力を活かしてアカリ町の反対岸にある集落『トモリ村』に向かう。ウソップはメリー号で待機だ。

「何でオレだけお留守番なんだよー」

「文句言わないの!お宝だって多少積んでるんだし、ひょっとしたらサンジくんが戻ってくるかもしれないでしょ。それと。みんなにこれを渡すから持って行って」

ナミは班ごとに島の地図を配り、捜索隊全員に一枚づつ写真を手渡した。それは、以前ひょんなことから撮影されたサンジのモノクロ写真だった。

「考えたなー、ナミ。こいつがあれば、きっとすぐに見つかるぜ」写真を見るなりウソップが言った。

「でしょでしょ。とっておいて良かったー。まさかこんな風に役に立つとは思わなかったけど」

「・・これは何かしら?」ロビンが怪訝そうな顔でナミに問いかけた。

「プロマイドよ」

写真の中でほほ笑みかけるサンジは、なぜかドレス姿だった。

「・・コックさんは女優さんだったの?」

「一時期ね」とナミは意味ありげな笑顔をロビンに向けると、すぐに真剣な顔つきに戻って捜索隊の指揮を取った。

「いーい?こんな顔をした“男”を見ませんでしたか?って聞いて回るのよ。サンジくんを見つけ次第船に戻ること。タイムリミットは真夜中ですからね。ゾロはくれぐれも迷子にならないでよー。あんたまで探してられないんだから!チョッパーも、頼んだわね」

「おうっ!」チョッパーはトナカイに変身してやる気充分だ。

「とっとと行くぞ」

またもやゾロの号令で、それぞれは目的の場所を目指して出発した。


海を背にして立つと左手に山が見える。アカリ町は港からその山の裾野に向かって扇状に広がっていた。

町の真ん中には大きな通りがあり、それは右手側の峠を越えて島の奥にある小さな漁村、トモリ村まで伸びている。ルフィ&ナミ班とゾロ&ロビン班は、その大道りの左右に分かれてサンジを尋ねて歩いた。

町は活気があり、人通りも多かった。ナミはサンジのことなどそっちのけで食べ物を物色するルフィを叱咤しながら、出会う人出会う人ほとんどすべてにサンジの写真を見せてまわったが、誰もがあっさりと首を横に振るのだ。焦る気持ちを急かすように、時間はまたたく間に過ぎていく。あちらこちらの軒先では、早くも明かりが灯っていた。

「航海士さん!」ロビンが通りの向こうで手を振るのを見て、ナミは思わず駆け寄った。

「そっちはどうロビン?」

「ごめんなさい、収穫はゼロよ」

「こっちも全然なのー」そう言ってナミは深いため息をついた。

町中をぐるりとまわったが、本人はおろか手掛かりさえも見つけられない・・。店先のスイカによだれを垂らしているルフィや、ロビンの後ろでぼーっと突っ立っているゾロに、ナミは八つ当たりしたい気分になった。

「サンジくん・・この島にはいないのかしら・・」

「まだ・・時間はあるわ、航海士さん」だから諦めないで、と言外にロビンが励ますと、ナミは”そうよね”とうなずいた。

「それにしても、すごい数の明かり。不思議ね、日暮れまでにはまだ間があるのに」ロビンがふと疑問を漏らした。

見渡せば、町はまるで夜が来たかのように、無数のカンテラの灯に照らされていた。

「そう言われてみれば・・・。今日はお祭りかなにかかしら?」

「ここじゃ、毎日こうなんだよ。カンテラは、この島の特産品でね」

そばで店番をしていた老女が、ナミたちの会話に混じって話し始めた。

「でもそれだけじゃない。これは弔いの灯りだよ」

「弔い?」ロビンの表情に関心の色が浮かぶ。

「この近くの離れ島には村があったんだけどね、ある日大きな津波が押し寄せて、何もかも攫(さら)っていったのさ」

「それって・・」

「おそらく私たちが立ち寄った島のことね」

2人は島の奥で見た廃墟の光景を思い出していた。

「それからさ、村を津波が襲った時刻に、こうして明かりを灯すようになったのは。亡くなった村人たちの霊をなぐさめるためにね。だからこの島のことを“弔い島”と呼ぶ者もいるんだよ」

「弔い島・・」

その言葉の暗い響きはナミとロビンの心に重くのしかかった。

悲しい過去を思い出してしまったのか、うつむき、肩を震わせる老女。ナミとロビンは申し訳ない気持ちになってなにか慰めの言葉をかけようとした。すると老女は顔を上げ苦しみをこらえるような表情を見せ・・・、ヒャッヒャと笑い声を上げた。ナミとロビンが老女の視線の先へそろって振り向くと、ルフィがスイカをまるごと口に入れていた。

「ルフィ!あんた何やってんのよ!?」

「何かな、こいつ口の中に入ってきたんだよー。不思議スイカだな」

「んなことあるかーい!!」

とナミがルフィの頭に大きなゲンコツを落とす。

「たいへん航海士さん。剣士さんがいないわ」

さっきまで近くに立っていたゾロがどさくさに紛れいつの間にか消えていた。

「あれほど念をおしたのに!ゾロの奴~!」頭を抱えるナミ。

「・・食うか?」

とスイカを差し出すルフィの頭に、ナミは容赦のない2発目を繰り出した。

(プロマイド?ドレス?女優? という方は、シリーズ1作目『レディーボーンと夢』をご覧ください。)

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