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第一部 メリーの憂鬱

ゾロの奴どうしちゃったんだよ・・・。

キッチンに立つサンジはナミと同じセリフをつぶやいた。剣士の様子が最近どうもおかしいと、実はサンジも感じていたのだ。

ゾロがサンジにいちいち突っかかってくるのは以前からのことだ。だが最近は、それが体を張ったやり合いにまで発展しない・・。売られたケンカを買おうとすると、ゾロは「やってられっか」とか何とか言ってすぐにいなくなってしまうのだ。蹴りをかまえては空振りが続き、サンジはスランプに陥ったバッターのようにいまひとつ調子が出なかった。

いや、それより気掛かりなのは、ゾロの食事の量が減ってきていることだ。昨日など好物を並べたにも関わらず、うわの空で3分の2程度食べるとそこそこに席を立った。丁寧にゆっくりと味わっては、満足そうに「ごっそさん」と手を合わせる。そんなゾロのいつもの食べ方をひそかに気に入っていたサンジは、剣士の食の細さが気になってしょうがない。“ひょっとしてどこか悪いのか?”とも考えたが、今までに増して熱心に体を動かしているあの男が病人だとはとても思えない。『修行病』あるいは『鍛錬病』という病がこの世にあるとしたなら話は別だが。

『何か悩みでもあるのかしらね?』ロビンの言葉が頭をよぎった。

あの剣士に最も似つかわしくない“悩み”という単語。

万が一、マリモに人間並みの悩みがあったとして、だ。そいつは奴の問題だしな・・・。

「いや~あちーな~!サンジ~なんか飲物くれよ~」

ウソップが自分のシャツで汗を拭き拭きキッチンに入ってきた。

「アイスティーでいいか?」

「おー、有難え!・・・・・・・・ぷはーっ、うめえ!」

「飲むのはえーって」

サンジは笑いながらウソップに2杯目を注いでやると、大きめのグラスを2つ用意した。

「なあ。それ飲み終わったらこいつをゾロに持ってってくれねえか?」

「いいぞー。お安い御用だ」

サンジが注いだグラスの1つを差し出すと、ウソップは快く引き受けた。

「俺が頼んだってことはくれぐれも内緒にしといてくれよ」

「へっ?何だよ、オメーらまたケンカか?」

「・・まあそんなトコだ。けど干からびた哀れなマリモに水を与えてやらないといけねえ」

「サンジも苦労するな~。わかった任しとけ。マリモは俺サマが救ってみせるぜ」

「悪りいな」サンジは片手でウソップに拝んで見せてから、「じゃー俺はトナカイを救助しに行くとするかー」ともう1つのグラスを手にラウンジを出て行った。


「おーゾロ、ここにいたのかー」

ミカンの木のそばで腕立て伏せをするゾロを見つけて、ウソップが近づいた。

「なんか用かウソップ?」迷惑そうにゾロが応える。

「冷てえな~お前。イイもの持ってきてやったのに~。ほらよ、ありがたく飲みやがれ」

ゾロが体の向きを変え腹筋を始めたので、そこからも見える位置にウソップはグラスを置いた。

「・・・コックか」ゾロはチラリと視線をやると、忌々しそうに舌打ちする。

「コックに言われて持ってきたんだろ?」

「ち、違うわい!確かに作ったのはサンジだけどよ・・。コレは俺サマからの差し入れだぞ」

「ふーん。テメエの差し入れねえ。・・・わかったよ」

ゾロは疑いの目を向けるのを止め、観念したように手を伸ばした。グラスはすぐに空になった。

「ゾロー。サンジと何揉めてんだよ?」

「なんにも揉めてねえよ」

「何意地張ってんだよー」

「意地も張ってねえし」

「ったく、駄々っ子かよ・・。オマエすごく喉乾いてたんだろ?サンジのアイスティー美味かっただろ?」

「・・・・」

「ケンカするのは勝手だ。仲良くしろとは言わねえよ。けど、サンジの作るもんに罪はねえ。そうだろ?」

「・・・ウソップ」

「・・・でもあいつ時々わざとらしく料理にキノコ入れてくっからなー。あれは重罪だな」

「・・・・・」

「まー、ともかくケンカすんな、仲良くやれよ」

「それ言わねえんじゃなかったかよ!?」

「まあまあ。じゃ俺行くぜ。干からびるなよ~!」とウソップはグラスを手に戻って行った。

・・・ウソップにまで気を使わせちまった。

駄々っ子か。・・確かに大人げねえよな。

ゾロは最近の我が身を振り返ってそう思った。

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