レディーボーンと夢
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次の日、メリー号はとある島に寄港した。
町をぶらついていたルフィとゾロは、ふたりにもぜひ見て欲しい映画がある、と言うウソップに腕を掴まれ、小さな映画館に強引に引っ張り込まれた。「俺は映画なんか見たくねえ」と抵抗したゾロだったが、「見たこともないくせにバカにするのは卑怯じゃねえか?」とウソップに言われると返す言葉が思いつかなかった。
誰にも言っていないが、ゾロは映画を見たことがあった。それは修行の旅に出て最初に訪れた大きな町で、突然降りだした雨をしのぐために映画館に入った時のことだ。客席に座るとちょうど上映が始まったが、暗い劇場の中でゾロはすぐうとうとした。
気持ち良くうたた寝して目を覚ましスクリーンを見たゾロは、思わずうめき声を漏らした。なぜならそこでは、いきなりはだかの男女が、いやらしい営みの真っ最中だったのだ。ふたりは犬のような格好で絡み合い、男が腰を振るたび女は艶めかしい声を上げた。
映画はいわゆるポルノで、女を知らない少年剣士にとってその生々しさは衝撃的だった。恥ずかしさで顔を赤くしながら、それでも、というか、やっぱり、というか、最後まで観賞し、興奮し、映画館を出た。以来ゾロは、映画といえばセックスを、セックスといえば後背位を、無意識に連想してしまう。夢に現れたサンジと男の光景はまさに昔見たシーンそのままで、ゾロは映画なんか見なければ良かったと最近猛烈に後悔したばかりだった。
ウソップおすすめ映画は、ポルノではなく恋愛物だという。これは寝るしかない、とゾロは目を閉じたが、すぐにウソップに体を揺さぶられた。
「ゾロ見ろよあの女優。サンジにそっくりだろ?」
ゾロの視線はスクリーンに釘付けになった。
眉毛こそ巻いてはいないが、白い肌、金色の髪、きれいな顔立ち、生意気そうでお高くとまった表情まで、コックに瓜二つだった。ゾロが注目したのは女優だけではない。その恋人役が、サンジと抱き合っていた男にこれまたよく似ていたのだ。
「あれ、サンジの姉ちゃんじゃねーか?」とルフィーがあたりに構わぬ大声でウソップに話しかけ、「さあなー。姉弟がいるなんて聞いたことねえしよ・・」 ウソップはしきりに首を傾ける。「おまえら、ちょっと静かにしてろ」そう言ってゾロは体を乗り出し、真剣に映画を見続けた。
やがて物語は、金持ちの娘から酒場女に身を落としたサンジ顔のヒロインが、かつて恋人だった男と偶然再会する、というクライマックス・シーンを迎えた。
『もうほっといて!』
『待ってくれ!』
男は逃げるヒロインを後ろから抱きしめ愛のセリフを囁いた。
女はその言葉に心を打たれ、愛する男の胸に飛び込んだ。
そして、抱き合うサンジと男・・。
「ほんとそっくりだよなー」
そこでウソップがしみじみと言ったので、ゾロは吹き出しそうになった。
厚い化粧をしドレスを着ているが、あれはサンジ本人だ。他のシーンは分からないが、さっきのあのシーンだけは、まぎれもなくサンジが演じている。そのリハーサルを目撃したに違いないゾロには、強い確信があった。
ウソップの情報によると、主演のトリシアという女優は撮影中に足を怪我して動けなくなり、これが最後の映画になるという。もしそんな状況で代役を頼まれたとしたなら、あいつはきっと断れないだろう。
俺ァとんでもない勘違いをしてたって訳か・・・。
映画館の帰り道、ゾロの足取りは軽快だった。
「な。オレの言った通り、見て良かっただろー?」
「そうだな」と笑うゾロに、ウソップは得意そうな顔をした。その手には、数枚のプロマイドが握られている。
売られていた中から、トリシアではなくサンジの写真を選んでいることを、ウソップは知らない。
船に戻ってこの写真を見せた時に、サンジがどういう反応をするのか・・・。ゾロは楽しみでしょうがなかった。
END . . . but,
ゲストページに続く・・