レディーボーンと夢
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昨日メリー号は『ロス島』の港に船を着けた。
着くなりナミを船番に置いてクルーたちはみな島に降り、サンジは食糧を、ウソップは備品資材を調達するために、ロス島の中心街である『ハリウッドタウン』の市場を目指した。荷物持ちを頼まれルフィとゾロも同行したが、ゾロは町中に入るあたりでいつものごとく一行とはぐれてしまった。
まったくあいつらときたら、すぐにいなくなっちまいやがる。早く見つけてやらなきゃな・・。しっかし、なんだこの町?やけに・・・。
繁華街らしき通りに並ぶ映画館を眺めながら、ゾロはふと、今朝のラウンジでのひと幕を思い出していた。
「楽しみだなー。これから行くのはカリフォルニア諸島のロス島だろ?ロス島の町ハリウッド・タウンって言やぁ、映画の都だ!ひょっとすると、映画スターに会えるかもしれねえよなー!?」
とウソップが浮かれた調子で話し出したが、仲間は誰ひとり乗ってこない。
「何だよ?オメーら反応薄いなー。・・映画見たことない、なんて言うんじゃねーだろな?」
すると、ナミとサンジが、「知ってる、けど見たことない」と打ち明け、ルフィが「映画って何だ?」と質問で返したので、ウソップは島に着くまでの間ずっと映画の魅力を語り続けた。
ルフィはウソップが以前見たという白いクジラと格闘する名作に、サンジは美しい女優が登場する恋愛物語に、ナミはスターの巨額なギャラの話題に興奮して聞き入った。ウソップはふたりの剣豪が決闘する活劇についても語ってくれたが、ゾロは正直関心が持てなかった。本物の死闘を幾度も経験してきた剣士からすると、それは所詮絵空事でしかなかったのだ。
仲間も市場もゾロの前になかなか姿をあらわさなかった。大きな円を描きながら中心部から遠ざかっていることに気づかぬまま、ゾロは着実に自分の信じる道を歩き、かれこれ2時間が経とうとしていた。
やがて、変わった建物がちらほらと建つ一画にゾロは歩みを進めていった。建築物は年代も雰囲気もまちまちなうえ広範囲欠損した部分があり、たいへん人目を引く。あたりを歩く人の姿もさまざまで面白いのだが、ゾロが関心を示すことはなかった。
そんなゾロが教会風の建物の角を曲がって足を止めたのは、ようやく仲間が視界に入ったからだ。うっかり見過ごしそうな奥まった場所で、サンジが見知らぬ男と立ち話しをしているのが見えた。スラリと背の高いその男は、整った顔立ちに似合いの派手な服を着て腰には長剣を差している。
近くに酒場が見えたので、ルフィとウソップはきっとあの中にいるのだろう、と察しをつけサンジに声をかけようとしたゾロは、あわてて物陰に隠れた。遠くからは真剣に話し込んでいるように見えたふたりだったが、近づいていくとあまり穏やかな話し合いではないことがムードで伝わってきたのだ。ゾロはとりあえず様子を窺うことにした。
会話は聞こえなかったが、声の調子や身振りからすると、やはりふたりは争っているようだった。そのうちサンジは男に背を向け立ち去ろうとしたが、男は慌ててサンジの正面に回り、詰め寄るように肩を掴んだ。サンジはその手を振りほどこうとし、男は離さない。傍観を決めていたゾロは、じりじりとその様子を見守っていたのだが・・
どういう訳だ!コックの奴、なんで蹴らねえ!?
ゾロが思わず物陰から大きく身を乗り出した、その時だった。
「もうほっといて!」叫んでサンジが男を振り払い走り出した。
「待ってくれ!」男はしつこくその後を追いかけ、追いつくと後ろからサンジの体を羽交い締めにした。
あの野郎!
ゾロは眉をピクリと動かすと、刀に手をかけ物陰から出て行こうとした。が、その動きはすぐに止まった。なんとサンジが男に向き直ってひしと抱きついたのだ!ためらうでもなく男もサンジの背中に腕をまわす。恋人同士のように抱き合うサンジたちの姿に、ゾロは呆然とした。
夜遅く船に戻ったゾロは、サンジに何も言わず、何も聞かなかった。
「あの男とはどういう関係だ?」
「ナミとどっちが好きなんだ?」
「てめえはホモなのか?」
問いただしたいことはいろいろあったが、ゾロはそれをぐっと堪えて黙って食事をし、床に着いた。そしてー、例のあの夢を見たのだ。
夢に出てきた男に見覚えがあったのは当然だろう。
サンジと抱き合っていたあの男の顔を、ゾロはしっかりと見たのだから・・・。