レディーボーンと夢
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ゾロは今日も不機嫌そうに朝食を食べていた。ロス島を離れしばらく経ったが、毎晩のように悪夢にさいなまれている。サンジがはだかで登場する例のあの夢だ。おかげで寝起きはひどく気分が悪かった。
「サンジくん、このサラダ美味しいっ!」
「喜んでいただけて何より。ナミさんのようにみずみずしい野菜とナミさんのように甘酸っぱい果物を、ナミさんのように香ばしいソースで和えてみました。美味しいのは当然デッス!」
「朝からうるっせぇよテメエは」
調子よく鼻の下を伸ばしたサンジに、ゾロの口からつい荒っぽい言葉が飛び出した。
「そう言うテメエは朝から最悪だな。なんだよその面?」
「ああ?俺の顔に文句でもあんのか?」
「あるに決まってんだろ。メシ食ってる最中にそんな物騒な顔してんじゃねーよ」
「悪かったな物騒な顔で!」
「ちょっとあんたたち止めなさいって!ああっ!!」
今にも取っ組み合いを始めそうなふたりを止めようとナミが勢いよく立ち上がり、そのはずみでサラダが皿ごとテーブルから落ちてしまった。慌ててナミが床に屈み、「オレがやるからいいよナミさん」とサンジもそばに来て手を出した。
「ごめんねサンジくん。でも良かった~、割れてないわ」と言いつつ拾い上げた皿を手にとって、ナミは目を丸くした。
「これひょっとして・・まさか・・“オールドボーン”!?」
「その皿がどうかしたのかー?」ウソップが怪訝そうな顔でナミを見た。
「アンティークよ。今は作られていない幻の一品よ!スゴイ。お宝じゃなーい!けどどうしてこれが?」
ナミの視線は自然とサンジに向けられたが、答えはない。
「レストランのジイさんに貰ったんだろ?」とルフィが当てずっぽうで言ったが、ナミはそれには納得しなかった。
「だって、このお皿を使うようになったのは最近なのよ。サンジくん、そうよね?」
「・・さすがはナミさんだ。こないだロス島でパーティーの手伝いをしただろ?実はその時貰ったんだよ」
「こんな高価なものを?・・なーんか妙よね」
「もういいじゃねえか!・・たかが皿だろ?ごっそさん」
おもむろにゾロが席を立ち、話題はそこで途切れた。ナミはまだ納得出来ない様子だったが、サンジが再び床を片付け出したのでそれ以上は追求しなかった。
貰ったなんて、嘘だ。
ゾロにはすぐにピンときた。サンジはバイトとやらで稼いだ金で、あの皿を買ったのだ。
皿だと!?アンテックだかなんだか知らねえが、あんなもんのために男に体を売ったってのか?
怒りに似た感情が、胸のあたりを重苦しく詰まらせる。ゾロはまるでそれを消化するみたいに、朝食の後黙々と体を動かした。甲板の向こうではサンジが楽しそうにナミと話しをしている。汗を拭きながらふたりを遠くから見ていたゾロのそばに、いつの間にかルフィの姿があった。
「なあゾロ、ひょっとして、ゾロはサンジのこと、気に入らないのか?」
船長の質問に、ゾロは内心ドキリとした。
「・・なんでそう思う?」
「だってよー、サンジが来てからゾロ、変だろ?」
「・・俺よりあいつのほうが、よっぽど変だろ」
「確かに眉毛は変だな。でもサンジ、イイ奴だろ?メシはすげーうまいし、強え。それに、やさしいしな」
「そいつは分かってる」ゾロはため息まじりに答えた。
文句を言いながらも面倒がらずに起こしに来てくれるサンジ。“メシ抜きだ”とは言うが、ゾロがどんなに遅れようと食事にありつけないことなど一回もなかった。
「あいつはいい奴だ。・・けど、俺はあいつのことが理解できねえ。ムカツク。それだけだ」
「なーんだ、そおゆうことか!ん。なら問題ねえな!」
ルフィが安心したように深々とうなずいたが、ゾロは腑に落ちない。
「待てよ船長。ひとりで納得すんな」
「だってよ、理解できなくてムカツクってことは、“理解したい”ってことだろ?」
「あ?」
「理解したいってことは、“仲良くしたい”ってことだろー」
「ああ?」
「ゾロはサンジがすごく気に入ってるんだな。サンジが仲間になって、よかったな!」
「それは理屈が違うだろ!」
「違わねえよ」と満面でほほ笑むルフィ。
その顔は、なぜか不思議な自信で満ちていた。