チョッパーが消えた日
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風のない流氷三日目の午後、事件は起きた。
昼食の後、目立たぬようにそっとラウンジを出たゾロとチョッパーが、甲板で面と向かっていた。
「本気か、チョッパー?」
ゾロが念を押すように聞くと、チョッパーは大きくうなずいた。その顔は、青ざめていて必死だ。
「こんなこと頼んでごめん、ゾロ。自分じゃ出来そうもないから・・・」
「止めとけ。震えてるじゃねえか」
「違う!これは・・寒いからだよ。おれ怖くなんかないぞ!」
そう言ってチョッパーは獣形に姿を変えた。
「この方がやりやすいだろ?頼むよ。・・おれ、みんなの役に立ちたいんだ」
ゾロは迷った。だが、おそらくは泣きたいのを我慢して自分をまっすぐ見つめ返すトナカイの、その凛とした姿に、気高い想いに、心が動いた。
「てめェの覚悟は、よっく分かった」
音もなくゾロが腰から和道一文字を抜くと、チョッパーは体を強張らせた。
「目ェつぶってろ、すぐに済む」
「ありがとう、ゾロ」
チョッパーがぎゅっと目を閉じた次の瞬間、冷たい刃が見えない早さで振り下ろされた。
「チョッパー!!」
サンジの叫びが遠くに聞こえる。
獣身は斬撃にぐらりと揺れ、大きな音をたて甲板の床に倒れた。
サンジがラウンジから顔を出したのと、チョッパーがゾロのひと太刀を浴びたのはほぼ同時だった。
「チョッパー!しっかりしろチョッパー!」
駆け寄ったサンジが体を揺すってもチョッパーは目をさまさない。
「くそ!何てことしやがった、てめェ!?」とサンジに胸ぐらをつかまれたが、ゾロは無言だった。
すぐに他の仲間が甲板に集まって来た。
「トニーくん・・」「・・チョッパーどうして?」辛そうに目を伏せるビビとナミ。
「おい冗談だろ?・・何でこんなことに・・」うろたえるウソップ。
ルフィは、ただじっとチョッパーを見つめていた。
「あいつが望んだことだ」
「チョッパーが?・・よくわからねぇが、だとしたって、ほんとにやるこたねえだろ!!」
恐ろしく冷静なゾロと対照的に、サンジは動揺がおさまらない。
「あいつなりに考えて、決めたことだ。まわりがどうこう言うこっちゃねえ」
そう言って、ゾロはサンジの手に自分の手を重ねそっとふりほどくと、チョッパーのほうに視線を向けた。つられるようにサンジも、床に転がったチョッパーの生気のない角に目を落とした。
いっときの静寂のあとー
「心配するなよ、みんな」
口を開いたのは、チョッパーだった・・・。
「大丈夫、角ならまた生えてくるからさ!!」
ついさっきまで気を失っていたチョッパーが、元気よく立ち上がって胸を張った。
一同の緊張がゆるんだそのとき、甲板には一陣の風が吹いていた。